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NARRATIVES
BY INTERMEDIATORS

  • 執筆者の写真インターミディエイター事務局

人と、組織/コミュニティ/地域の関係を編みなおす Polyphony #2 イベント・レポート


シャベルと土

どこで、誰と、どんな風に暮らすのか。何に関心を持ち、どんな仕事をしていくのか。それぞれに異なる願いを持つ多様な「人」が、共通の課題や目的を見出し、協働する場として、企業やNPO、町内会や自治会、当事者グループといった「組織」をつくってきました。


バラバラだった個人が集い、協働することで、一人では対応できなかった大きな課題を解決したり、それまでになかった新しい価値を創ることが可能になります。こうした好ましい変化が起きる一方で、組織そのものが大きくなりすぎることで、個人の意思や願いが抑圧されたり、異なる立場や世代間の対立・分断が深刻化したりといった問題が生じることもあります。そうした状況において、組織に関わる多数多様な「人」のあいだをつなぎ、対立構造でない健やかな関係を編みなおす知の担い手が「インターミディエイター」です。


「Polyphony (旧 Dialogue with Intermediators)」の第2回では、地域の公園や福祉施設、企業で過ごす人たちが協働して運営する「コミュニティ・ガーデン」を全国に広げる木村智子さん、1人1人が心身ともに健康で、安心して生きられる社会を創ることを目指して、複数のスタートアップ企業の人事や組織づくりに携わる伊藤優さんの2人をスピーカーにお招きし、「人と、組織 / コミュニティ / 地域の関係を編みなおす」をテーマに対話をしました。ナビゲイターは株式会社閒の鈴木悠平さんです。

2022年11月29日に、インターミディエイター3人によるダイアログ・イベントを開催。鈴木悠平、星野晃一郎、峯岸由美子

table of contents



みんなの笑顔がプラスされるガーデンづくりを


木村智子さん:

もともと公園などの造園の設計屋をやっていました。現在は「コミュニティ・ガーデン」づくりなどを通して、地域の庭や公園をみんなにとっていい場所にしていくために活動しています。実家が「フラワーセンター若草」という園芸店を営んでいて、小さい頃からお花が身近にあったことから花のある場としての造園に携わるようになりました。


両親が亡くなってから、園芸店は閉店したのですが、その店舗を引き継ぎ、園芸店時代の機能のひとつだった「人が集える場所」にしようと思って、「C-cafe」というコミュニケーション・スペースにリニューアルしました。「フラワーセンター若草」という会社名も「みんなの笑顔がプラスされるように」との願いを込めて「スマイルプラス」という名に変えました。


「コミュニティ・ガーデン」には、場所・形・大きさなどの制約はありません。仲間と楽しみながら、ガーデンを一緒につくる人や楽しむ人の笑顔があれば、それを 「コミュニティ・ガーデン」と呼んでいます。「みんなで考えて、みんなでつくって、みんなが楽しめる」。この3つのステップでコミュニティ・ガーデンをつくっています。ですから、小さな児童遊園も、公共の公園も、地域のみんなで「3つのステップ」を踏むとコミュニティを育む場になっていきます。


2つ具体例を紹介します。ひとつは東京都国立市矢川にある滝乃川学園です。滝乃川学園は日本で最初にできた知的障害のある人のための社会福祉施設です。2017年からこの敷地の一角でコミュニティ・ガーデン・プロジェクトをすすめています。このプロジェクトでは、まずみんなで対話をかさね、「このガーデンに多様な人が来ることで、知的障害のある方への社会の理解を高めたい」という施設の内外の方の願いから、「誰もが集い・憩えるガーデンをつくり続ける」場を目指すことになりました。想いを持った人が集まり、敷地に線を引くところからはじめ、植物や芝生を植えて、1年という時間をかけてガーデンができあがりました。現在では「ゆるゆる活動」と名付けて、月に1度ガーデンを公開しています。芝生広場でのんびりする人や、土いじりをする人、おしゃべりをする人など、みなさんそれぞれの楽しみ方で過ごされています。


滝乃川学園のガーデン

もうひとつが、東京都清瀬市のプロジェクト「みんなの公園づくり」です。清瀬市の公園で、公園づくりのワークショップと基本計画づくりを担当しました。その上で、「この公園をもっといい場所にするにはどうしたらいいだろう?」と、近所の方と定期的に対話をしながら色々な活動をかたちにしていっています。


市民と行政、行政と実施設計コンサルタントのあいだ、より広くは人・環境・社会の「あいだ」に立って対話と協働を促し、地域にイノベーションを起こしていくことが、インターミディエイターとしての私の役割だと考えています。



従来型の「人事」の再定義を目指して


伊藤優さん:

私は現在フリーランスとして、NPOや株式会社の「人と組織」に関わること全般に携わっています。具体的には、いわゆる採用、人事制度・組織づくりなど、組織や人の「困りごと」を起点として、働く人たちがいいなと思える状態に向かっていくお手伝いをしています。


フリーランスになる前までは、都市銀行の法人営業、ベンチャー企業の人事労務・財務、外資コンサルティング・ファームでの新規事業立ち上げ支援に携わってきました。この経歴だけを見ると、「人事色が強くない」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。そこで、なぜ今このような仕事をしているかをお話したいと思います。


いま頭の中にあるのは「人が心身ともに健康に働きつづけられるような、組織と個人のあり方とは?」という問いです。この理由は、組織がつくられたときの理念や意図と異なるにもかかわらず、組織で働く中で、個人の心身が壊れてしまうことがままあったためです。個人ではできないことをやろうとして生まれたはずの組織で、かえって個人が苦しんだり悲しんだりする事態がなぜ生じるのかという疑問がありました。そこで組織と個人を対立させず、双方にとってよいあり方を実現する方法として「人事」があるのかなという仮説を持っています。


現在の取り組みは、「実験」だと思ってやっています。ここには2つの意味があります。ひとつは、「フリーランスとして組織の中ではなく、外からかかわることでより個人と組織をつなげる可能性が見えるのではないか」という仮説を持っていて、その意味での実験です。もうひとつは「人事」を再定義するという実験です。とある人事の勉強会で、有名な企業の人事部長が「人事は企業の売上を伸ばしてなんぼだよね」と言っていました。私は人事を「業績をのばすための人事」だけでなくて、「人のウェルネスや幸せのための人事」として再定義できないかとトライしています。

伊藤優さんのウェブサイト画面


「生き物」として組織をとらえてみる


木村さんと伊藤さんの自己紹介を受けてナビゲイターの鈴木さんが問いを投げかけ、3人のダイアログが始まりました。


鈴木悠平さん:

木村さんにお話いただいたコミュニティ・ガーデンの定義がとても興味深かったです。庭や公園といった場所や形ではなくて、その場に集う人たちが楽しんで運営や活動に関われることが、コミュニティ・ガーデンの本質だという話です。


コミュニティ・ガーデンにいろいろな形があるように、人事も採用業務や労務管理などの典型的な業務に限らず、組織で集う人たちが健やかに働くための営みとしてとらえると、「人事っぽくないキャリア」の伊藤さんの実験に、実は大きな可能性が秘められているのではないかと思いました。「組織は生き物」なので、事業がある程度発展していくなかでルールをつくっていくことが必要なこともあれば、硬直化したルールや慣習を編み直す場面もあるでしょう。


伊藤さん:

「組織は生き物である」ことを、私自身すごく実感しています。組織は「これでやりましょう」と型ありきでつくるのではなく、その場にいらっしゃる人と一緒に生き物を育てるようにつくられているなと面白いと思いました。こういうのは世の中でイメージされる組織像とは結構違うのかもしれませんね。


木村さん:

先ほど紹介した滝乃川学園のコミュニティ・ガーデンでは、一人ひとりがめいめいやりたいことを勝手にやって過ごしているにもかかわらず、全体としては楽しい雰囲気になっているんですね。その意味で、コミュニティ・ガーデンが生き物のように動き始めているのはすごく面白く、もしこれが会社という組織であったならば、きっと面白いイノベーションが生まれる場になるんじゃないかなと思いました。


一人ひとりの多様な思いを起点にする


木村さん:

コミュニティ・ガーデンづくりでは、インターミディエイターの【5つのマインドセット】が活きたと感じています。


滝乃川学園に限らず、人や場は、時として固定化してしまうことがあります。インターミディエイターとしての学びの中で、そういうときには「多様性や複雑性を生み出すことが大事」と知りました。固定化してきたなと感じたら、次に複雑性を増すためにはどうしたらいいかを考えることで、組織はまた活き活きとしていくように思います。



伊藤さん:

新規事業の立ち上げに、主に「人と組織」の面で伴走させていただいたケースがありました。そのときはインターミディエイターという概念に出合う前だったのですが、心がけていたことは、そこにいる人たちの「思い起点」でやっていく、ということでした。


こうあるべきとグイグイ当てはめるのではなくて、「そこにいる人たちの思いをどういうふうにしたら実現できるのだろう」と考えて一緒に対話をしていく。そうした、これまで自分が大事にしていたことが、インターミディエイターの学びを通してより意識的に実践できるようになったと思います。



課題や対立には「受容」ではなく「許容」を


鈴木さん:

ここまで取り組まれてきた中で、課題や難しさを感じたことはありますか。


伊藤さん:

いま現在進行形で向き合っている課題は、ビジネスにおける「経済性」と「その人らしく働く」の両立についてです。本当は両立したいけれど、どちらが犠牲になってしまうというケースがこれまでも少なからずありました。そうしたときには、「経済性」と「その人らしく働く」がすぐには両立しないことをちょっと「許容」するというか、理想に向かって一緒に対話を重ねること自体に意味や意義があると思いながら、変容に寄り添っていくマインドが大切なのではないかという気がします。


鈴木さん:

「許容」という言葉が出てきました。「個人の健康」と「事業の成長」の両立が、短期的にはなかなか難しいこともありますよね。こうした矛盾があったときには、問題を見ないようにするのではなく、「しんどさがあるね」「私もみんなも感じてるね」と、答えはすぐに出ないけれどそれを言葉に出して認識や感情を共にする。まずは現在の状態を「許容」して、しんどい気持ちも共有することで、「じゃどうしようか」とみんなで知恵をしぼるモードになれるのかなと思います。


木村さん:

インターミディエイターのマインドセットのひとつが、【多様性の許容と対話能力】です。ここでは、「受容」ではなく「許容」という表現を使っています。「許容」と「受容」は違うんですよね。自分と違うと思うものをすべて「受容」するのは大変だけど、「許容」ならば多くの場合できるのではないかという話がありました。「許容」という視点を持てると、「人の気持ちは簡単に動くものではないから、ある程度の時間は必要だよね」と思えるようになります。


鈴木さん:

すごく大事なことだと思います。そもそも意見や感じ方は立つ立場によって違うという前提から対話をはじめることですね。この観点で具体的なエピソードはありますか。


木村さん:

あるワークショップをやったのですが、人数が多く丁寧に対話ができないと感じました。そこで個別にヒアリングをして、考えの相違も「許容」しながら、一人ひとりとじっくり対話する機会を設けたんです。そうした「個別の対話」を経てから「たくさんの中の対話」へ戻っていく。そしてまた「たくさんの中の対話」から「個別の対話」へ…と順繰りにやっていく。そうするとうまくいくように思います。



対話から「未来の物語」を編む


鈴木さん:

木村さんのコミュニティ・ガーデンでも、伊藤さんが協働された新規事業でも同様ですが、従来にはないものをつくろうとするときに、さまざまな抵抗やブレーキがかかることは珍しくありません。新しいことには誰しも不安を感じるだろうし、イメージがつかないという人もおられるでしょう。そうしたときに工夫されていることはありますか。


伊藤さん:

やはり「対話を重ねていくこと」が大事だと思っています。対話においては、もちろん、相手に言葉を届けることも大切です。ただ、それだけではなくて、まさにこのダイアログの時間がそうでしたけれど、対話を通じて「自分はこんなことを思っているんだ」とか「この人はこんなこと考えていたんだ」とか、「そもそも何を考えているか」をお互いが知る機会にもなると思っています。

鈴木さん:

対話の場を開くことはもちろん、対話を諦めずに「続ける」ということも大事ですよね。対話を粘り強く続ける中で、いろいろな人の言葉を拾って「物語」を編むこともインターミディエイターの役割だと思います。


滝乃川学園のコミュニティ・ガーデンでみんなの思いを形にした「妄想マップ」を木村さんに見せていただきましたが、あれもひとつの「物語」ですよね。対話から出てきた「こんなコミュニティ・ガーデンをつくりたい」「自分たちの会社をこんなふうにしたい」といったみんなの思いを編み合わせて未来の物語を描くことで、対立から協働へと向かうことができるのではないかと思います。



ダイアログを終えて


参加者からは「社内で対話の時間を設けているが、発言のない人や発言がしづらそうな人がいる」という悩みがあがり、木村さんからは「会社の中の方と話しづらいことも、例えば伊藤さんのような外の方となら話せることもあると思う。中だけで解決しなくてもいいのでは」と、組織が硬直化してきたときにこそ、多様性を持ち込むことの重要性を言葉にされていました。


伊藤さんからは「対話で何を目指したいかという思いを、最初から全員では難しくても、まずは数人でも共有できた状態で場を開いたり、会の冒頭で『今日はこういう対話の場ですよ』といった目的を明確に言葉で伝えてからはじめるといいのでは」と、対話を実現するための具体的な方法をシェアしていただきました。


「コミュニティ・ガーデン」と「人事」。一見、共通点がなさそうに思われるテーマでしたが、多様な人が関わる「生きた」場づくりに向けた活動であることが2人のインターミディエイターとの対話の中から浮かびあがってきました。組織が硬直化したり対立状態が続きそうになったときこそ、「多様性」を取り入れること、意見の相違も「許容」しながら粘り強く対話を続けること、さらにその対話から未来の「物語」を描くこと。さまざまな場や組織の課題を解決し、価値を創造するためのマインドセットが随所に感じられる対話となりました。


執筆:上杉公志

編集・企画:鈴木悠平、松原朋子


 

スピーカー・プロフィール


木村智子さん

有限会社スマイルプラス 取締役

ランドスケープアーキテクト&コミュニティガーデンコーディネーター。まちや公園、各種施設等でコミュニティづくりのための道筋を描き、人・まち・自然を紡いで「関わる人が自ら楽しみながらコミュニティを育む場」の実現をサポート。造園コンサルティング会社で公園緑地やURの外構計画設計に携わり独立。2002年よりシンガポール在。Singapore specialist tourist guide(自然分野)を取得。熱帯雨林や生物多様性等のガイドを務める。帰国後、2010年(有)フラワーセンター若草代表取締役 就任。2013年には浜松市にコミュニティカフェ「C-cafe」をオープン、2017年にはコミュニティデザインオフィス「スマイルプラス」設立。


伊藤 優さん

オフィス・アペゼ代表

都市銀行、福祉領域企業(人事・財務)、外資コンサルティング企業での勤務を経て独立。現在は、複数のスタートアップ企業の人事の伴走支援、海外ルーツの方向けの就労支援などに従事。原点にあるのは、大学4年次に滞在した西アフリカのトーゴで「精神的な豊かさ」の大切さを感じたこと。そして、自分自身がメンタルヘルス不調に悩んだ時期に、社会の中で安心して頼れる場所の必要性を実感したこと。「働くこと」のサポートを通じ、1人1人が心身ともに健康で、安心して生きられる社会を創ることを目指している。


鈴木悠平さん

文筆家 / 株式会社閒 代表取締役

東日本大震災後の地域コミュニティの回復と仕事づくり、学ぶことや働くことに障害のある人や家族を支援する企業での現場支援や研究開発、メディア運営等を経験したのち独立、2020年に株式会社閒を設立。医療的ケアニーズや重度障害のある人たち、罪を犯して刑務所に入った人や出所した人たち、精神疾患や依存症のある人たちなどのリカバリーや自立生活に向けた支援に携わりながら、「生活を創造する」知と実践の創出・展開に取り組む。





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