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NARRATIVES
BY INTERMEDIATORS

なぜ「日頃の食」が防災につながるのか── 神田ゆかさんが実践する、回復力を育む仕事とその立ち位置(公開ダイアログ “未来のしずく”シリーズ)

  • 執筆者の写真: インターミディエイター事務局
    インターミディエイター事務局
  • 1 日前
  • 読了時間: 9分
神田由佳さんをゲストに招いて、公開ダイアログを開催した際のカバー画像
神田由佳さんをゲストに招いて、公開ダイアログを開催


インターミディエイター講座2026」開催に先立ち、説明会を兼ねた公開ダイアログが行われた。2026年の公開ダイアログは、「未来のしずく─これからを言葉にしていく場─」というタイトルの元で開催していく。シリーズを通じて、未来をつくる言葉を見つけ、少しでも実践に役立てていただけたら幸いだ。

 

2026年の公開ダイアログ第1回目は、4月6日、防災士・管理栄養士の神田ゆかさんをゲストに迎え、「食 × 防災 × あいだを結ぶこと」をテーマに開催された。


この公開ダイアログは、知識を一方的に伝えるセミナーでも、結論を示す講演会でもない。ラジオの公開収録のように、対話を一緒に聴きながら、それぞれが自分なりの実感を持ち帰ることを大切にした時間である。神田さんの実践を軸に据えながら、防災を日常の延長で捉え直す視点が、少しずつ浮かび上がっていった。


目次

  ◼︎ 参加者コメント・サマリー

 

 

1.「食」の専門家が、防災と向き合うようになった理由

神田ゆかさんは長年、管理栄養士として「食」を専門に活動してきた。総合病院での急性期医療、高齢者や妊産婦への栄養支援、介護予防、さらには専門学校での授業まで、その経験は医療と生活の両方にまたがっている。

そんな神田さんが、ここ数年とくに力を注いでいるのが、「食と防災」を結び直す実践だ。その背景には、世田谷区での地域活動やボランティア経験があった。防災と聞くと、多くの人が非常食や備蓄を思い浮かべがちである。しかし、管理栄養士である知見を活かして神田さんが着目したのは、災害関連死や、被災後しばらく経ってから表面化する心身の不調だった。

そこであらためて問い直されたのが、「災害が起きてからどうするか」だけでは足りないのではないか、という点だ。日頃の食生活や体の状態そのものが、災害後の回復力に深く関わっているのではないか。この実感が、食と防災を切り離さずに捉える視点へとつながっていった。

 

2.「温かい食事」がつなぐ、日常と非常時

神田さんの話の中で、繰り返し強調されていたのが、災害時であっても「温かいものを食べる」ことの意味だった。ポリ袋を使った簡単な湯せん調理を各地で実演し、子育て世代や町内会、福祉団体などへと広げてきた背景には、温かい食事が身体だけでなく心を支えるという確かな実感がある。

また、備蓄についても、「特別なものを用意する」という発想ではなく、普段から自分が食べられるものを回しながら備えるローリングストックを勧めている。これを昨今では、国も防災の観点で推奨している。お米と味噌、乾燥野菜や野菜ジュースなど、日常の延長線上にある食材を中心に据えることで、「備え」が続く形になる。非常時に食べられない嫌いなものを無理に備えない、という判断もまた、重要な現実的判断なのだ。

こうした実践は、防災を非日常の対策として遠ざけるのではなく、日々の食卓そのものへととらえなおしていく力を持っている。

 


3.地域から企業へと広がる「回復力」という視点

世田谷区は、神田さんが生まれてからずっと過ごしてきた故郷だ。その世田谷区では、在宅避難が前提とされている。人口に対する避難所が不足しており、災害時に全員が避難所で過ごせる地域ではないのだ。一定期間を自力で過ごすことを想定すると、「起きてから三日分備える」だけでは十分とは言えない。神田さんが重視しているのは、まさにこの現実を踏まえ、「日頃からどう整えておくか」を考える姿勢である。

2024年に立ち上げた任意団体「ワクワクぼうさい」では、世田谷・梅ヶ丘で月1回の朝のコミュニティ食堂を運営している。一見すると防災とは直接結びつかない活動に見えるかもしれない。しかし、朝ごはんを共に食べ、あいさつを交わし、防災カードを手に取るなど、小さな積み重ねが、地域の人と人との関係をつくり、災害が起きた後の回復力を確実に育てている。理解が広がっている手ごたえを感じているという。

 

4.企業を対象に展開される新プログラム「四季の防災」

世田谷区で企業対象プログラム「四季の防災」をプレゼンテーションする神田由佳さん
世田谷区で企業対象プログラム「四季の防災」をプレゼンテーションする神田由佳さん

この視点は、家庭や地域にとどまらず、企業へも広がっている。「四季の防災」という考え方を通じて、季節ごとに備えを見直し、備蓄というハード面だけでなく、人の状態や関係といったソフト面に目を向ける。神田さんが今後、企業を対象に本格的に展開していこうとしている新しいプログラムだ。

これまでの企業防災は、どちらかといえば年に一度の訓練や、備蓄チェックといったイベント型になりがちだった。しかし神田さんは、そのあり方に違和感を覚えてきたという。災害は、ある日突然やって来る。にもかかわらず、備えが特定の日にしか扱われないのは、現実的だろうか。

そこで提案されているのが、「春・夏・秋・冬」という時間の単位で、防災を見直していく発想だ。夏には暑さ、停電、食中毒、感染症への備えが必要になる。一方で、冬には寒さや日照時間の短さ、体調やメンタルへの影響にも目を向ける必要がある。季節が変われば、身体の状態も、リスクも、必要な配慮も変わる。にもかかわらず、それらを一括りに「防災」として扱ってきたこと自体が、無理のある設計だったのではないか——そんな問いが、このプログラムの出発点にある。

神田さんは、登山の経験や医療現場での感覚からも、「状況が違えば、持つものも、食べるものも、行動も変わる」という当たり前を、企業防災に適用できると考えている。四季ごとにテーマを設定し、備蓄の見直しだけでなく、食・体調管理・チーム内の連携や判断について、短いサイクルで対話を重ねていく。そうすることで、防災は“特別な訓練”ではなく、“仕事や日常の延長にある営み”へと変わっていく。

さらに重要なのは、このプログラムが「モノ」よりも「人」を中心に据えている点だ。災害後に組織が動けるかどうかは、結局のところ、人が動けるかどうかにかかっている。日頃から体調や関係に目を向け、考える時間を積み重ねておくことが、そのまま企業の回復力につながる。神田さんが描いているのは、このような循環型のプロセスづくりである。

「四季の防災」は、企業に防災を義務として“やらせる”ためのプログラムではない。むしろ、働く人一人ひとりが、自分自身の状態と周囲との関係を見直すための枠組みだと言えるだろう。

インターミディエイターの学びと重ねて考えれば、防災というテーマ自体が媒介となって、人と人、企業と地域など、あいだを結んでいると見える。スタッフ同士の関係を結び、経営層とスタッフとのコミュニケーションも増え、地域とも連携が必要だ。よりよいチームづくりやコミュニティ形成に寄与する取り組みといえるだろう。

 

5.枠の外に立つからこそ、つなげられる人がいる

ダイアログ後半で印象的だったのは、神田さん自身が感じてきた「枠」の話だ。子育て世代、高齢者、女性、障害者など、社会は属性によって細かく分類されている。しかし、そのどこにも完全には当てはまらない、枠の中に入らない人たちは、支援やつながりから漏れやすい。

神田さんは、自身もまた「どこにも属さない感覚」を持ってきたと語る。だからこそ、食と防災という、誰にとっても無関係ではないテーマを手に、自分から枠の中にいる人々のもとへ出向いていく。「つなぐ」ことを目的にするのではなく、必要な場所で出会いのきっかけをつくり、あとは場に委ねて、また次へと移る。その繰り返しが、小さなチームや関係を生み出してきた。

それは戦略というよりも、枠に入りきれていない人たちや、声を出しにくい人たちに自然と目が向いてしまう性分に近いようだ。「気づいてしまう」ことから始まる行動だという。



◼︎ 参加者コメント・サマリー

― ダイアログに加わった4つの視点 ―


◼︎ 勝又さん(四街道市みんなで地域づくりセンター)多分野の団体が関わる災害ネットワーク団体を設立準備中。「できる人が、できるときに、できる範囲で関わる」という考え方が、関係を持続させ、地域のレジリエンスを高めていると実感した。特に「回復力」という視点が、防災の捉え方を広げた点が印象的だった。


◼︎ 工藤さん(被災地支援経験者・ふっくら布ぞうりの会代表)東日本大震災の後、被災地に通い続けてきた経験から、「決めていないことが、いちばん危ない」と指摘。平時から行動を決め、共有しておくことの重要性と、恐怖ではなく日常から防災を組み立てる神田さんの姿勢に強く共感した。


◼︎ 岡野さん(住まいるCooK代表取締役)防災を後回しにしてきた自分に気づかされ、「知っているのにやっていなかった」状態を改めたいと語る。神田さんの話を聴くことで、行動へのスイッチが入った感覚があった。


◼︎ 長田さん(薬剤師、メディカルハーブサロン主宰)人を支える専門職でありながら、防災を十分に日常へ落とし込めていなかったことを振り返り、農地やコミュニティまで含めた神田さんの視野の広さに、あらためて防災の奥行きを感じた。



6.「インターミディエイター」という言葉が、あとから重なってきた

ダイアログの終盤で紹介されたのが、「インターミディエイター」という考え方である。

インターミディエイターとは、人と人、異なる立場と立場、日常と非常時といった、現代社会で切れてしまいがちな「あいだ」を行き来しながら、単なる調整にとどまらず、そこから新しい動きや関係を生み出していく存在を指す。

振り返れば、神田さんの実践には、この要素が随所に見られる。食と防災、家庭と企業、専門と暮らし。そのあいだを往復しながら、回復力や新しい関係を育てていく姿そのものが、インターミディエイター的実践だったと言えるだろう。

最後に神田さんは、「正直なところ、自分では“あいだに立っている”つもりはあまりなかったが、話すことで気づくことがあった」と語った。


自身の実践を言葉にし、次の展開につなげていく場として、「インターミディエイター講座」は毎年開催されている。神田さんの話に共鳴した方は、ぜひ足を運んでみてほしい。


対話の中で発見した気づきは、それぞれの日常で育っていく。その積み重ねこそが、防災を「特別な備え」から、「続いていく営み」へと変えていく力なのだろう。


 

■神田由佳さん プロフィール

管理栄養士・防災士。四季の防災。食BCPで企業を止めない!食と防災で地域の安心を育む「備えるごはん」プロジェクトを展開中。日常から未来を守る力を届けます。 世田谷区で任意団体ワクワクぼうさいの代表を務める

 


■「インターミディエイター講座2026」参加申込 受付中

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「インターミディエイター講座2024」の様子。対話的に、和やかに行われて行きます
「インターミディエイター講座2024」の様子。対話的に、和やかに行われて行きます


文:松原朋子

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