「勝ち組なんていらない」ねこの約束ものがたり

最終更新: 2018年11月30日

北川雄史 社会福祉法人いぶき福祉会専務理事


#障害 #安心して暮らせる地域 #ねこの約束 #マドレーヌ #岐阜 #いぶき福祉会 #福祉 #北川雄史

招き猫マドレーヌの誕生


 第二いぶきでパウンドケーキ作りが始まったのは2003年のことでした。たった4人の利用者と2人の職員からの出発。その時せめてもとこだわって入手した素材が岐阜県飛騨地方でつくられていた希少バターでした。


 上質で物語性がある素材を使うことは、自信を持って商品を扱うことにつながると考えたからでした。



 ちょうどその頃、これからの作業所では市場に通じるような商品開発が必要になるという意識をいぶきに投げかけ続けてくださるデザイナーとの出会いがありました。

焼菓子の試作をしては、その方にお届けして感想を返してもらう。そんなお菓子工房の始まりでした。


 そんな中、「(当時まだ開港して間もない)中部国際空港で草木染を売りたい」そんなことをつぶやいた職員がいました。空港のある常滑市は、日本一の招き猫の陶器の生産地です。当時招き猫を活用した町おこしにとりくんでいて、そこに先のデザイナーも関わっておられました。


 そこで考案されていた常滑焼の伝統工芸士の技術を活かしたシリコン製の招き猫の立体型は、高価な金型をおこさずにオリジナル型が作れる画期的なものでした。お蔵入りしそうになっていた型を、いぶきで使わないかと声がかかりました。


 いつも届けられるあのこだわりのバターの風味が忘れられず、「もしかしていぶきならやってくれるかも…」と思ったそうです。


 分厚い型が第二いぶきに届いた4時間後には、試作第1号ができていました。

招き猫は縁起物。いつかこの猫が願いを叶えてくれればとの気持ちをこめて、「ねこの約束」という名前をつけました。



ネコにも超えられない壁


 招き猫マドレーヌは予想を超える反響でした。製菓コンクールで金賞をいただいたり、新聞や雑誌にも掲載が続いたり。順風満帆のように思われましたが、早々に壁にぶつかることになりました。


 当時の生産能力は一日頑張っても200個あまり。大口の注文があればとても対応できませんでした。頑張って作らなければならない。そうして職員も利用者も次第に生産に追われるようになっていきました。


 改修したり機械を導入することもできず、二次障害の懸念や疲労の蓄積なども目に見えるようになってきました。これだけ売れて自信を持てるようになってくる一方で、どこか売上の数字だけでは満たされない気持ち。このままでは気持ちも身体も壊れてしまう。これはわたしたちが望んだことだったのだろうかと、そんな葛藤に包まれるようになってきました。


 やがて、ひとつの大きな判断をすることになりました。ここではもう作れない…。そしてもっと仕事をバリバリとやれる事業所に生産拠点を移転させることにしたのです。関わっていた4人の利用者と2人の職員にはいろんな思いが交錯しました。でも、別のメンバーに夢を託そう自分たちに言い聞かせたのでした。


 2009年春、招き猫マドレーヌの生産拠点は、第二いぶきの小さな工房から、施設の工賃アップの補助金で整えた新しい工房へ移っていきました。



福祉課じゃなくていいんですか?


 そんなときにまた思わぬチャンスがやってきました。


 招き猫マドレーヌのファンでもあった方が、JR岐阜駅にお店を出さないかという話をくださったのでした。わたしたちは、売り上げと同時にこの店を通して地域を元気にしていこうと思いました。


 そこに並ぶ商品はあくまで「県産品」であり、お店はその販売と発信の拠点。施設はメーカー。大切にしていることのひとつが障害福祉だっただけのこと。いぶきは社会福祉法人だから福祉課とやりとりしなければならないという思い込みから抜け出し始めていました。



新しいつながり方


 こうして2010年4月に誕生した「ねこの約束」のお店。そこを軸にした人とのつながりは多様でした。


 岐阜県はモノづくりが盛んな地域です。陶器、木工、和紙、刃物、竹細工、プラスチック、酒などの食品といった地場産業の中小企業がひしめいています。そして、現状をなんとかしようとする意識をもっている企業ほど、自社の利益と同時に地域の元気の必要性を理解していました。この町が元気でなければ自分たちが幸せになれるはずがない。そんな語り合いがされる中に、「ねこの約束」も次第に仲間に入れてもらえるようになりました。



ねこの約束


 いぶきの理念のひとつは「どんな障害のある人も、安心してゆたかに暮らせる地域を作る」ことです。


 ねこの約束を開店する頃に思いついたフレーズがあります。


「Not win-win relationships,but happy-happy partnerships!」


 勝ち組なんていらない。いぶきだけがよくても何も意味がない。施設は日本中にあるのだから、わたしたちは「ねこの約束」に、たくさんの人の幸せと希望を、これからも込め続けていきたいと思います。








活動分野: 新しい社会の価値創造における福祉の果たせる役割

発揮したインターミディエイターのマインドセット:

 □3分法思考/多元的思考

 □エンパシー能力

 ☑多様性・複雑性の許容

 □エンパワリング能力

 □対話能力

 ☑物語り能力

 ☑エンゲイジメント能力



Certified Intermediator


北川雄史

社会福祉法人いぶき福祉会

専務理事


1969年京都市生まれ、神戸育ち。筑波大学第二学群人間学類卒。大日本印刷株式会社に3年間在籍。社会福祉士取得後、1997年に社会福祉法人いぶき福祉会に入職。障害福祉に携わるようになる。従来の福祉の枠にとどまらず、福祉のつよみをいかした商品開発や、地域のモノづくりのネットワーク活動などにも積極的に取り組む一方、最重度の障害のある人の社会参加、いのちの問題などを医療・教育と連携しながら向き合いつづけている。共同著書に「ねことmaruとコトコト~障害のある人の「働く」をつくる」きょうされんKSブックレット。



Editor

福田 容子

「インターミディエイター」は設樂剛事務所の登録商標です

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