池田英郎 社会福祉法人京都福祉サービス協会 地域共生社会推進センター 事務局長

突然の休校宣言からつづくモヤモヤ
2020年3月から5月まで、学校や児童館は、自治体の指示により一律に閉鎖となった。新型コロナウィルスの感染拡大防止対策だ。しかし逆に、保育園や学童クラブは原則開所の指示。感染リスクに配慮しつつ開所しつづけることとなり、職員にも大きな負担がかかっていた。私は児童館(0歳から18歳までが自由に利用できる施設)と学童クラブ(児童クラブ、学童保育所)を併設する施設の館長として、大きなモヤモヤの中にいた。
児童館は子ども達や保護者が自由に来館し、遊び、交わり、時には相談できる地域の子どもの砦となる施設だ。その中で実施する学童クラブは、就労等で放課後に子どもだけになる家庭の小学生を登録制で預かる事業である 。普段は、児童館に遊びに来た子どもも、学童クラブとして利用する子どもも分け隔てなく遊び、多様な年齢の子ども同士や、地域の大人、併設する特別養護老人ホームの高齢者とのかかわりもあった。
そんな中で、児童館は一斉休館し、学童クラブは実施するようにとの、行政からの指示だった。京都市からの委託事業で運営しているため、その方針に沿って動くのだが、私には大きなモヤモヤが残った。感染を防ぐ行動は当然のことだが、遊びに来る子どもには「感染したら大変だから来ちゃだめだよ」と伝え、学童クラブに登録する子どもには「大丈夫だから来ていいよ」と伝えなければならない。子ども達にとって、児童館は安全な場所なのか危険な場所なのか。自分が納得していないことを子どもや保護者へ伝えなければならない苦しみがあり、モヤモヤの毎日であった。
学校や家庭の代わりの場所?
コロナ禍以前から、私は児童館や学童クラブの価値について、社会へもっと発信しなければならないと考えていた。学童クラブはよく「家庭の代わりに子どもを預かって…」と表現される。運営している方もそのように語る。しかし私は、家庭の代わりではなく、学校でも家庭でもない独自の「第3の場所」であることの意義や価値を伝えたいと思って活動してきた。そこには、先生でもない親でもない大人がいて、“指導する大人”ではなく、子どものそばにいて、“一緒に生活する(あそぶ)人”がいる。
そこにコロナ禍が到来し、物事が「必要火急」なことと「不要不急」なことに二分され、児童館の事業も二分された。第3の場所の視点から見ると、閉めることで家庭内での虐待リスクが高まることなどが予見され、必要か不要かを、預かり機能だけで判断することへの疑問があった。何より施設を開けるか閉めるかを、自らの判断で決められないことがモヤモヤの正体だった。コロナ禍以前からある、ただ「家庭の代わり」だとする評価や、遊びを無駄なものとする社会に蔓延する効率重視の風潮に対して、「第3の場所」であることの意義や価値を共有しきれていない自分の無力さを感じた。
コロナ禍で芽生えた対話
そんなモヤモヤを、目の前の感染対策に明け暮れる職員とともに話し合う機会を持った。職員もそれぞれ、自分の家族の心配もしながら、ギリギリで仕事をこなしていた。今後の活動をどのように考えるか、行政からの指示を待つだけでなく、館長の私が決めるのでもなく、一緒に考えたかった。
児童館として遊びを不要不急とされていていいのか。いつものように遊びのイベントができないか。いつものような行事は危険だろう。行事をやって感染者でたらどうするのか。この状況で地域の人の理解を得るなんて絶対無理だ。自分が感染させたら申し訳ない。など、いろいろな意見や不安を出し合った。誰しもが初めて経験する事態である。「正しさなんてない」ということを前提にした話し合いの結果、職員だけでなく、子ども自身や今まで関わりのある地域の皆さんとも対話をして、コロナ禍でも子どもが遊ぶイベントの計画をしてみようということになった。
みんなが無理と思えばすぐに中止する。参加しないという意思も大事にする。場所も児童館に集めるのではなく、地域にある3つの公園を全部使って分散させる。公園間の道も遊び場にする、という企画の素案ができた。そして、職員とともに手分けして、自治会やかかわりのあった地域の方の家を1軒1軒たずね、お話をすることになった。コロナ禍では集まって話すことを封じられるのが痛かったが、気を遣いながら、玄関先での対話を繰り返した。
遊び大作戦!
地域の方々との対話では、当然ながらイベント開催の賛否の声が入り混じった。しかし、誰もが数か月先の未来が予測できないこともあり、参加しないという判断も尊重する姿勢や、いつでも中止できることなどを共有することで、協力したいという声も多く集まった。街中を移動しながら遊ぶため、交通安全を心配する住民が交差点に立ってくれた。これまでつながりのなかった高齢者によるゲートボールクラブがコーナーを展示してくれた。これ以外にもたくさんの思いがけないつながりが生まれ、「遊び大作戦」と名付けた遊びのイベントが開催できた。
結果的に、これまでの行事よりも住民のかかわりが強くあるイベントとなった。印象的だったのが、「今までも関わっていたけど、児童館ってこういう役割なんだって、今日はじめてわかった。社会に必要な場所やね。」という住民からの声だった。逆風の中を歩んでいた感覚があったが、その中で児童館の価値を見つけていただけたことが、私にとっては大きな励みになった。


発揮したインターミディエイターのマインドセット:
☑3分法思考/多元的思考
□エンパシー能力
☑多様性・複雑性の許容
☑エンゲイジメント能力
☑エンパワリング能力
☑対話能力
□物語り能力
Certified Intermediator
池田英郎 (いけだ ひでお)
社会福祉法人 京都福祉サービス協会
地域共生社会推進センター事務局長

1978年生まれ、兵庫県明石市出身。社会福祉士。 高校時代の阪神淡路大震災をきっかけに地域活動に参加。大学在学中に子どもや若者、不登校児の居場所づくり活動を行う。卒業後、地域の子どもの砦となり得る児童館の可能性を広げたいと考え、京都で児童館職員として活動。約20年間、子どものそばにいる大人として「やらされ」ではない「やりたい」が発生する場づくりを行う。 現在は、運営母体の京都福祉サービス協会の地域共生社会推進センター事務局長として、子どもから高齢者、地域の方々と共に、「サービスの提供者」と「ご利用者」の関係を超えたつながりづくり・まちづくりに取り組む。
Links
◉社会福祉法人 京都福祉サービス協会 地域共生社会推進センター (kyoto-fukushi.org)
◉地域共生社会推進センター インスタグラム
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