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NARRATIVES
BY INTERMEDIATORS

  • 執筆者の写真インターミディエイター事務局

暗黙のルールに縛られた音楽「鑑賞」から、多様な音楽「体験」の創造へ〜「第3回ラポルテ・コンサート」の企画・運営を通じて〜

上杉公志 作曲家/編集者役


車いすに乗った子供

 「音楽」とは、そもそも多様で、絶対的な優劣などはない。世界各地の生活や文化とともに、数えきれないほどの音楽がうまれてきている。数ある音楽の中から、私は、音楽大学でいわゆる「クラシック音楽」について作曲を専攻し、グレゴリオ聖歌から現代音楽に至るまで、その歴史や音楽的な魅力を学ぶことができた。その反面、音楽を志すきっかけとなった映画音楽やゲーム音楽といったジャンルの音楽が、大学のアカデミックな場で過小評価されていると感じる場面が少なからずあり、大切にしていた音楽を否定されたような思いになり悩んだこともあった。確かに、クラシック音楽にしかない魅力はある。それならば、同様にBGMにしかない良さもあるはず。この体験から、一つの立場から優劣や正誤を判断するのではなく、多様な音楽のあり方そのものを大切にしていきたいと思うようになった。

 

 音楽といっても多様な音楽があるのならば、「コンサート」も同様である。「フォーマルな服を着るべき」「かしこまって聴くべき」といった暗黙のルールがあると思われがちな「クラシック・コンサート」も、肩肘を張らず、来場者がより自由に音楽を鑑賞できるものがあってもいいのではないか。食事でもカジュアルな朝のシリアルや、好きな料理をその時の気分で選ぶビュッフェがあるように。演奏会を企画する機会が増えていく中で、そのような思いが募っていった。



音楽への「限られた参加・関与」のあり方を多様にしたい


 こうした思いから、「ラポルテ」の3回目となるコンサート(2022年12月開催)の企画・運営にあたって、従来型のクラシック・コンサートにとらわれないスタイルを目指した。「ラポルテ」は、作曲家の新作初演を目的として設立した任意団体である。私は、作曲家兼事務局メンバーの一人として、主に3つの工夫を新たに行った。

 

 1つ目は、「プログラム」の工夫である。これは、「ラポルテ」を設立した目的である「作曲家の新作初演」と親和性が高く、事務局メンバーと共にプログラムを組み立てた。具体的には、世代やスタイルも異なる9名の作曲家へ作曲を依頼し、幅広い楽器編成(木管楽器・金管楽器・打楽器による組み合わせ)による構成とした。こうすることで、作曲家と楽器それぞれの特徴が、組み合わせの「多様さ」や「複雑さ」によって、より際立って来場者に伝わるのではないかと考えたのである。

 

 2つ目の工夫として、来場者の多様な聴き方を言葉でうながす「プレトーク」を、開演前に設定した。私は作曲者のひとりとして、プレトークの対話役を志願した。プレトークは、演奏者と作曲者によるダイアログ形式で実施。9名の作曲家のスタイルの多様さや、演奏団体が大切にしてきたフィロソフィーを対話的にシェアすることで、ステレオタイプな「クラシック・コンサート」の聴き方ではない、より自由な聴き方を提案した。プレトークで特に強調したのは、「作曲家のスタイルや楽器ごとにそれぞれの魅力があるように、来場者のみなさんの属性や音楽のバックグラウンドも様々なので、それぞれが自由に音楽を楽しんでほしい」ということである。聴き方も自分なりの楽しみ方で良いと、事前に「言葉」で伝えることで、新作やクラシック・コンサートに馴染みのない方も、安心してその場に臨んでいただきたいと考えた。

 

上杉公志さん
コンサート前に来場者との対話(プレトーク)を企画・実施

 最後は、コンサートの「告知」の工夫である。今まで告知をしてこなかった、クラシックにあまり馴染みのない方々へ、積極的にお誘いをした。そう決断できたのは、この演奏会を「純粋に音楽だけを楽しむ場」という従来型の捉え方ではなく、「来場者がそれぞれの自由に音楽を楽しんでもよい場」として定義し直すことができたからである。個人的には、今まで抵抗のあったSNSで告知ができたことも、ささやかながらも大きな変化だった。実際に、SNS投稿をきっかけに数人の方々に演奏会へお越しいただくことができた。



トラブルを、さらなる理解の機会へ


 開催が近づく中、ある問題が出てきた。新作の総演奏時間が想定よりも長くなったため、「プレトークの削除」が話題にあがったのだ。他に解決方法はないのか調べたところ、ホール利用時間を延長すれば、プレトークの時間を確保できることがわかった。しかし、そのためには追加料金の支払いと、助成金申請先への追加手続きが必要な可能性がある。

 

 そこで私は、緊急で事務局メンバーとのZoomミーティングを設定。プレトークの意義を伝えるだけでなく、助成金申請時に提示した「来場者にとって親しみやすい公演の工夫をする」という活動を、プレトークが担っていることを強調した。「助成金交付のため」という事務局メンバーの立場から、プレトークの必要性を伝えたのである。結果的に、関係者からの理解が得られ、予算や手間といった目先の負担軽減ではなく、プレトークを継続することができた。事務局メンバーにプレトークを実施する意義をより理解してもらう機会になった。




来場者との対話で発見した、思わぬ「気づき」


 こうした工夫も功を奏して、公演は無事終了したのだが、想定外の気づきがあった。それは、コンサートにお越しくださった複数の方が、作品への感想に加えて「自分にとって演奏会がどのような音楽体験であったか」を寄せてくださったことだ。その音楽体験がどれも興味深く、もっと詳しく話を聞きたいと考えた。そこで、お声かけした来場者のうち10名にお会いし、ラポルテのコンサートについて対話の機会を設けることにした。

 

 一連の対話でわかったことは、お越しになったみなさんが、受動的に音楽を「鑑賞」するのではなく、自由に音楽を「体験」してくださっていたことである。ある方は、吹奏楽部員だった学生時代を懐かしく想起し、ある方は息子さんの打楽器好きを発見していた。またある方は、作曲家のプログラム・ノートの書きっぷりや服装、ステージ上での立ち振る舞いから、その人となりを予想してコンサートを楽しまれていた。

 

 この対話を通じて、コンサートは単なる受け身の音楽「鑑賞」ではなく、来場者の参加・関与次第で、いきいきした音楽「体験」になる、という気づきをいただいた。「鑑賞のやり方も、人それぞれでいいのだと伝えたい」という当初のねらいを、来場者のみなさんはとっくに超えていたのである。一連の対話は、私自身にとっても「演奏会は、音楽家と聴衆という関係を超えて、それぞれの多様性を活かしながら共創していくことができる」と確信できる、貴重な「音楽体験」となった。


上杉公志さんが企画したコンサートの式次第


 

発揮したインターミディエイターのマインドセット:

☑3分法思考/多元的思考

□エンパシー能力

☑多様性・複雑性の許容

□エンゲイジメント能力

☑エンパワリング能力

☑対話能力

□物語り能力

 

Candidate Intermediator


上杉 公志  (うえす ぎこうし)

作曲家・編集者

鈴木悠平さん

幼少期に映画やゲーム音楽に感銘を受け作曲をはじめる。音楽大学在学中、音楽が扱われる「場」や「メディア」に関心をもつ。

業界団体や音楽企業にて、コンサート・講座の企画運営や留学カウンセリング業に従事したのち、音楽とかかわりの深い「ことば」の重要性を感じ、2019年に独立。

現在は作編曲のほか、(株)編集工学研究所のウェブメディア「遊刊エディスト」の編集・執筆や対話を通じたライターたちとの関係づくりなど、音とことばによる「あいだ」や「場」の編集に携わっている。





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