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NARRATIVES
BY INTERMEDIATORS

  • 執筆者の写真インターミディエイター事務局

コミュニティ・ガーデンという場~施設の内と外のあいだ~

更新日:2023年1月4日

木村智子 スマイルプラス代表


みんなが求めていたもの

話し合いを始めた頃のガーデン予定地

 創立120年を超える歴史ある「滝乃川学園」があります。この重度の知的障がい者施設の建て替えに伴い、東京・国立市に約500平方メートルの空き地が生まれました。学園がその活用方法を模索していたところ、近隣にあった「くにたち蜜源ガーデン」が移転先を探していることがわかり、空き地に植物を移転してガーデンにするという話が持ち上がりました。


 私は当初ガーデン設計の相談にのるという立場で、学園本部と蜜源ガーデンの打合せに参加しました。そして、まず両者にマッチングが必要だと理解しました。


 学園には、もともと空き地をガーデンにしたい理由があったわけではありません。空き地を放置できない学園本部はまだしも、職員のみなさんにとってこの話は降って湧いた話のはずです。他施設での経験からも「職員の理解を得ずガーデン移転をすると後々問題が起こってくる」と感じました。


 そこで、「ガーデンプロジェクト検討会」の開催や職員の意見収集・フィードバックを通して、職員が計画を受け入れやすい環境を作ることを提案し、学園から了承を得ることができました。私はそこでガーデン設計者兼コーディネーターという立場で関わることになりました。


 第1回検討会の開催は2016年7月半ば。出席者は学園本部・職員・蜜源ガーデン関係者でした。「未来の学園に向けてここがどんな場所になったらいいか?」という問いに対して「地域の人たちがやってきて利用者さんと一緒に活動し楽しめる場所が欲しい。施設や知的障がいのことを知ってもらえるような場所が欲しい」という意見が大勢を占め、そういう夢を叶えるために、この場にはいろいろな人たちが関わる「コミュニティガーデン」という形がいいねという雰囲気も生れてきました。



事件と学園の決心


 第2回検討会を前に起きたのが、津久井やまゆり園での大量殺傷事件です。学園利用者の障がい度は当該施設と同程度(重度)で、同じことが学園で起こっても不思議はない状況です。日々流れてくる警察によるセキュリティ強化指導のニュースや、衝撃の大きさから、私は「この計画は流れてしまうかもしれない」と思いました。


 そのため、第2回検討会では、学園理事長のお考えをお聞きしました。事件からわずか1週間ほどでしたが、すでに保護者や職員、本部で話し合って方針は決まっていました。

「学園はずっと地域と共にやってきて、120年間、門扉すら無かった。建物のセキュリティ強化はするが、今後も地域に開いていく。そのために、この場所は、施設や障がい者への理解を得る場所としていきたい」


 その場にいた一同が「なんとかそんな夢のガーデンを実現したい!」と思った瞬間でした。



ガーデンプロジェクト検討会の話し合い

職員へのアプローチ


 この時点で「蜜源ガーデンの植物を移転してコミュニティガーデンを作る」という方向は出ました。ただ、「職員の理解が得られていないのでは?」という当初からの課題はそのままでした。検討会に参加しているのは、約200人の職員のうち、ほんの数人です。そのため、多くの職員にとにかくプロジェクトの存在を知ってもらうための通信を毎月作って配布しました。また一方では、職員の心配事をアンケートやヒアリング等で明確にし、解決していきました。一番大きな心配事は「職員が手入れをする時間の余裕はない」というものだったので、「外部のボランティア中心で手入れをする」方針を示し、ひとまず安心してもらいました。


話し合いの結果を設計に反映させながら、職員にお便りで周知

 もちろん、ガーデンと職員の気持ちに距離があるままでは、目指す夢は実現しません。最終的に何らかの形で関わってもらうことは必要ですが、道筋の中では後回しにしても良いと考えました。人の心が何かを受け止めるには、時間も手間もかかります。大切に考え、丁寧に行っていかなければなりません。





新たなステージへ


 その後、学園本部の協力を得ながら外部ボランティア中心で手入れを行い、1年半ほどでそれは素敵なガーデンができあがりました。ガーデン作りの目的を明確にして外部や参加者へ示したことで、多くの共感と協力をいただけて実現しました。ガーデン作りには多くの物語と出会いがありました。想像以上に本当に多様な人が訪れて話を聞いてくれ、楽しみながら参加してくれました。


 今ではガーデンにはきれいに花が咲き乱れ、苺や芋ができ、利用者さんに収穫を楽しんでもらえるようになりました。職員のみなさんもガーデンを好意的に受け入れています。今後は、園芸アクティビティの展開など、ガーデンの利用方法の奥行を職員に紹介し、ガーデンとの距離を徐々に縮めてもらいながら、学園外部の人との関わり方も仕組みを整えて充実させ、みんなが夢見た場所を確実に実現していくステージに入っていきます。


出来上がった滝乃川学園ガーデン。多様な人が参加して0からつくりあげた


滝野川学園ガーデン

 

活動分野: コミュニティガーデン

発揮したインターミディエイターのマインドセット:

☑3分法思考/多元的思考

☑エンパシー能力

☑多様性・複雑性の許容

☑エンゲイジメント能力

☑エンパワリング能力

☑対話能力

☑物語り能力

 

Certified Intermediator


木村 智子

スマイルプラス代表

ランドスケープアーキテクト&コミュニティガーデンコーディネーター。まちや公園、各種施設等でコミュニティづくりのための道筋を描き、人・まち・自然を紡いで「関わる人が自ら楽しみながらコミュニティを育む場」の実現をサポート。造園コンサルティング会社で公園緑地やURの外構計画設計に携わり独立。2002年よりシンガポール在。Singapore specialist tourist guide(自然分野)を取得。熱帯雨林や生物多様性等のガイドを務める。帰国後、2010年(有)フラワーセンター若草代表取締役 就任。2013年には浜松市にコミュニティカフェ「C-cafe」をオープン、2017年にはコミュニティデザインオフィス「スマイルプラス」設立。


スマイルプラス http://smileplus.ltd/

コミュニティカフェ「C-cafe」 http://ccafe.org/

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