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NARRATIVES
BY INTERMEDIATORS

  • 執筆者の写真インターミディエイター事務局

夢みるオープンパーク計画 〜遺志を継いで、市民参加型の公園をつくる〜

更新日:2023年1月4日

木村 智子 有限会社スマイルプラス 取締役



市民の遺志を継いで「みんなが欲しい公園」を計画する


 ある市で、おばあさんが「私が死んだらこの土地をまちに寄付するわ。お花が大好きだから、ここを花でみんなが笑顔になるような公園にしてね」と言い遺して亡くなった。その遺志を継いで、市はその土地を「花がいっぱいの公園にしよう」と考えたが、どうしたらいいのかわからない。そんな中で、私はガーデニングの専門家として相談を受けた。


 私は次のように答えた。「公園ができたときに、『市民のみなさん、花をテーマにした公園ができました!みなさんで手入れしてください!』とお願いしたとしても、市民にとっては根耳に水です。まずは公園の計画段階から市民の意見を聞き、みんなが欲しい公園を計画するといいです。愛着が生まれれば、関わる気持ちがおのずと湧いてきます。」と。


 数か月後、市は「市民の意見を聞いて公園を計画するワークショップ」業務をプロポーザル方式で募集した。私は応募し、プレゼンをして採用された。ワークショップは好評のうちに進み、公園計画も完成。市民参加型の公園づくりのプロセスを提案して1年目は終了した。


 翌年度、提案に基づいてプロセスを遂行する業務が発注され受託した。その内容は、多様な背景を持つ市民たちに呼びかけ、話し合いの場を設けるというものだった。これは設計でも工事でもなく、そのあいだをつなぐのが仕事だ。これまで受けたことのないプロジェクト内容だったが、行政が私の提案に応える形で、それに挑戦しようとしてくれたことに、私は大きな一歩を踏み出せたような気がした。



第3の道としての「オープンパーク」というアイデア


 しかし年度が始まってすぐにコロナ感染拡大防止のための緊急事態宣言が発令された。人が直接会って対話をするという企画内容では、実施できないことになった。この状況の中、どんな代替案を出したらよいか悩む日々が続いた。


 7月になると、少しずつ外出を容認する雰囲気が生まれてきた。それまでにもヒアリングなどは行っていたが、人が出会うことによって生まれる何かがそれだけでは生まれないと感じていた。第3の道として、通常はオープンをするまでは使用しない公園予定地を使えないかと思いついた。屋外だから密にはならない。代替案として提案し、市からの了解がもらえた。担当者が「オープンパーク」とネーミングをしてくれ、「それだ!」と飛びついた。


 「公園予定地のオープンパーク~公園が正式に開園するのは、もうちょっと先ですが、公園予定地のお試し利用ができる日をつくりました!~」と銘打ち、そこでできることとして「虫取りをする」「花の手入れをする」「ヨガをする」など、色々なイメージをチラシに記載し、小学校、幼稚園等へ配布、近隣の家へポスティングした。SNSや市の広報などでもPRを行った。オープンパークの実施は、9月~12月まで合計12回。コロナ禍でなければ、市民が種まきをする予定だったが実施できず、市の職員が種まきしてくれたコスモスが、秋には咲きだすはずだ。


 花の開花時期なら、花が人寄せをしてくれるに違いないと思った。実施回数を複数回にしたのは、一度限りだと都合が合わず来られない人も、何回も実施することで、参加しやすくするためだ。



想定外の来場者数を集めたオープンパークの魅力


 とは言え、そんなに来場者は見込めないだろう、せいぜい1日30人くらいだろうと考えていた。ところが初日からなんと100人以上が訪れた。市も私もひたすら驚いた。


 市民には、「オープンパークでやりたいことをどんどん提案してください!」と現地で呼びかけた。


 多様な人たちの関りをうながしたかったため、「高齢者」、「障がい者」、「子ども」、「自然」、「マーケットなどのイベントに興味がある人」などのグループに、事前に個別でアプローチし、まずは公園予定地の空気を吸いに来て欲しいとお願いして回っていたのだった。


 オープンパークで公園予定地の空気を吸い、青空を見上げ、草の匂いを嗅ぎ、広い空間を眺めつつ、コスモスの花を摘む。人によっては公園計画についてスタッフから説明を聞いて数年後にできる公園に夢を馳せる。そういう実体験は、来る人に強烈な印象を与えたようだ。


 市民から「やってみたい」と寄せられる提案は、オープンパークの開催を重ねるごとに増え、マーケットや音楽の演奏、ヨガの教室などが行われ、多い日は300人もの人が訪れた。何もせず、家族連れでただただのんびりと過ごす人たちも訪れるようになった。




多様な関係の網の目を結ぶプロセスを通じて


 そんな中で、訪れる人をつかまえて、たくさんの対話をした。多様な人が思い描く公園の未来の姿に共感し、その人自らが動けるような言葉がけを意識して回った。今では新たな公園のイメージを持ってくれた人たちが「次のオープンパークはいつ?」「公園についての話し合いっていつやるの?」と声をかけてくれるようになった。将来、公園でやりたいことのために勉強を始めている人もいる。


 オープンパークは、コロナ禍のために苦しまぎれに出てきたアイデアだった。しかし、室内の話し合いではありえない、多くの人たちとの関わりを生んでくれた。その多様な関係の網の目を結ぶプロセスを通じて、一人ひとりのエンパワリングを重視した。これにより、それぞれの人が公園でやりたいこと、できることの火をともすことができたのではないかと思う。この心の火が消えないように、公園開園の日を共に喜べるように、頑張っていきたいと思う。



◎活動分野:

公園づくり


◎発揮したインターミディエイターのマインドセット:

☑3分法思考/多元的思考

☑エンパシー能力

☑多様性・複雑性の許容

☑エンゲイジメント能力

☑エンパワリング能力

☑対話能力

□物語り能力



 

Certified Intermediator


​木村 智子

有限会社スマイルプラス 取締役


ランドスケープアーキテクト&コミュニティガーデンコーディネーター。まちや公園、各種施設等でコミュニティづくりのための道筋を描き、人・まち・自然を紡いで「関わる人が自ら楽しみながらコミュニティを育む場」の実現をサポート。造園コンサルティング会社で公園緑地やURの外構計画設計に携わり独立。2002年よりシンガポール在。Singapore specialist tourist guide(自然分野)を取得。熱帯雨林や生物多様性等のガイドを務める。帰国後、2010年(有)フラワーセンター若草代表取締役 就任。2013年には浜松市にコミュニティカフェ「C-cafe」をオープン、2017年にはコミュニティデザインオフィス「スマイルプラス」設立。2021 年、有限会社スマイルプラスに社名変更、取締役に就任。



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