大理石の表面

Initiative Story

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コロナ禍に応募殺到する宮古島保育士移住ツアーの舞台裏

平田直大 一般社団法人しまのわ代表


#移住ツアー #保育士 #宮古島 #沖縄 #しまのわ #平田直大


現場の関心は高いが実施できないジレンマ


保育士移住ツアーを行った宮古島の海

 物語のスタートは、2018年だった。私が長年携わっている沖縄県の移住事業のなかで、宮古島市の担当者から相談を受けた。「実は待機児童が多いことが問題となっている」という。待機児童解消のための、保育士を対象とした移住ツアーの企画がはじまった。


 実は以前に石垣市で同じ内容でのツアーを実施していたこともあり、ある程度成功する可能性はあるとみていた。結果的にはツアー参加者のうち2名が宮古島市へ移住した。特に採用まで至ったH保育園のK園長からは、ツアー後に、また同じツアーを実施したいという要望をツアー後も受けた。


 しかし県が主催する事業の性質上、同じ内容のツアーは連続で行うことはできなかった。K園長は「県」ではなく「市」の事業として実施はできないか、宮古島市の保育部署に掛け合った。これに対して、色良い返事がもらえることはなかった。こうして現場からのニーズは高いものの、ツアーは実施できないという状況が、その後2年も続いた。

宮古島の保育園で遊ぶ子供たち
宮古島の保育園で育つ子供たち

未来志向の対話のために 「安心して任せることができる」状態をつくる


 2年のあいだ、私とK園長はツアーの実施に向けて水面下で動いていた。K園長はツアーに対する思いはあるものの、どのように進めたらよいかわからないという状態だった。


そこで、まずは私と一緒に状況を整理しつつ、何が出来れば実施が可能になるのかを分解した。「市が課題を重要視し、予算化すること」「単独の園の実施要望ではなく、複数園から希望があること」が重要であると伝え、市と園の双方への働きかけを進めた。


 市への働きかけとして、K園長と一緒に役場へ赴き、ツアーの効果と今後の要望について話を進めた。特に、本ツアーが「予算の投入が少ない中でも効果を発揮しうるものであること」「過去の実績があるので大きな失敗が無いことが想定されること」を伝え、市が「安心して任せることができる」という状態を作ることができた。


 また園と市担当者の2者だけでは対話として成立しておらず、互いに言いたいことを言えない状況だった。それは先方の本音がわからないことが原因だった。そこで、2者のあいだに入って双方の要望と譲れない線はどこなのかをそれぞれから引き出したのち、「未来志向の対話」を促した。この働きかけにより、事業のスタートをスムーズに切ることができた。


 一方で宮古島市の保育園全体の課題とすべく、園長会でツアー実施に向けてK園長先生から協力を要請した。K園長が根気よく説明を続けたことで、賛同する園が徐々に増えていった。


 2019年から働きかけを続け、ついに2020年3月、市長に対して直接、ツアー実施を要請する機会を得た。私も宮古島まで向かい、複数名の園長先生とともに市長に要望を提出した。議員の協力も得て2020年4月には実施がほぼ内定、6月の議会による予算承認を経て、正式にツアーが動き出すことになった。



コロナ禍でツアー実施は可能か?


 実施が決まったタイミングと時を同じくして、新型コロナウイルス感染が拡大した。離島である宮古島で、感染者が出てしまった場合はどうするのか。そもそもこの状況で実施を続けるのか。園長と何度も話しを重ね、結果的には実施することを決定した。7月より募集を開始し、9月と12月の2回の実施である。各回5名ずつの募集なので、計10名の募集だ。ところが、プロジェクトは注目を集め、最終的に60名近くにまで達した。


 しかし募集締め切りの8月は県の緊急事態宣言発令下であり、9月にそのまま実施できるのかわからない状況だった。またも園長と連日話し合いを重ね、10月への実施延長を決めた。参加予定者には延期決定までの背景を丁寧に伝えることで理解が得られた。


 まさか応募者がこんなにも多くなるとは嬉しい誤算だった。そこで少しでも参加者を増やせないか、市と予算交渉を行い、12月ツアーは10名で実施することに決まった。


 各ツアーの実施前には、園長会に参加し、ツアーをどう進めるべきかの話し合いを行った。各園長先生方も移住希望者受入には慣れていない方が多かったため、まずは安心してもらう状態をつくることが大切である事を伝えつつ、「対話」が重要であることを強調した。


宮古島のひよどり保育園での移住ツアー
宮古島で実現した保育士の移住ツアー

プロジェクトを「自分事」にする秘訣 〜対話能力と信頼関係〜



 10月のツアーで2名、12月のツアーで4名、計6名の移住が決まった。過去の同様のツアーと比較しても、非常に高い移住決定率だった。特に採用が多かったのが、当初から一緒に動いていたK保育園だった。

宮古島の保育園を見学する保育士ツアー
宮古島の保育園を見学ツアーする保育士さんたち

 園見学や面談の際に、園長の人となりが伝わるように、園長と私が対話の場面をつくり、その様子を見てもらったことで「信頼できる相手だ」ということが伝わったようだった。他の園長からも全体のプロセスを通じて平田個人に対する信頼をいただくことができた。S保育園のS園長や、F保育園のN副園長からは、「次年度も絶対にやりましょう!」という意気込みとともに、先生の採用報告を直接受け取った。


 何よりも園長先生たちがこのプロジェクトを自分事としてとらえるようになっていただけたことが、とても嬉しい。


コロナ禍で実施した保育士を対象にした宮古島移住ツター

◎関連リンク

・2020年度実施分の報道

http://miyakoshinpo.com/news.cgi?no=24535&continue=on

・2021年度実施分の報道

http://miyakoshinpo.com/news.cgi?no=25186&continue=on

・2021年度ツアー実施時の募集HP

https://miyako-hoikushi.studio.site/

・2020年度参加者のインタビュー記事

https://okinawa-iju.jp/news/8380/



◎活動分野:

地域での協働促進/新規プロジェクトづくり


◎発揮したインターミディエイターのマインドセット:

□3分法思考/多元的思考

□エンパシー能力

□多様性・複雑性の許容

☑エンゲイジメント能力

☑エンパワリング能力

☑対話能力

□物語り能力



 

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平田 直大

一般社団法人しまのわ 代表


1984年神奈川県生まれ。大学卒業後都内の情報会社勤務を経て、大学時代の研究テーマであった「中山間地域の維持可能性」に関わりたいと2014年に沖縄に移住。地域活性・プロジェクトデザインを行う会社の役員を3年間務めた後、2017年に沖縄で独立、現在に至る。県と市町村、市町村と地域住民といった、県内の各主体者の「あいだを繋ぐ」事業領域で奮闘中。

https://okinawa-iju.jp/

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