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NARRATIVES
BY INTERMEDIATORS

音楽とともに —— 作曲家 上杉公志が問う新たな音楽体験

  • 執筆者の写真: インターミディエイター事務局
    インターミディエイター事務局
  • 5月22日
  • 読了時間: 6分

更新日:5月24日

上杉公志さん

音楽は、演者が奏で、観客が聴く——それだけのものだろうか。

音楽は対話であり、協働であり、暮らしを触発するメディアである。サーティファイド・インターミディエイターであり、クラシックの作曲家・編集者として活躍する上杉公志さんは、そんな「音楽とともにある場」、「音楽とともにある生活」を追求し続けている。


従来の演奏会では、演者と観客がはっきりと二分され、観客はもっぱら演奏を「鑑賞する」ことが主な目的となる。しかし、上杉さんが創りあげる音楽の場は、それとはだいぶ異なる。音楽を媒介として、人々が出会い、対話し、convivial な場を設えることを目指しているのだ。


たとえば、一般的な音楽会のように、単にパンフレットを配布して終わりではなく、企画者である上杉さんが企画の意図を、そして背景を、冒頭で丁寧に語る。加えて、3人の作曲家たちが、作曲の問題意識を自身の言葉で語る。これによって、観客は何が行われるのかを受けとめた状態で演奏される曲を楽しむことができる。さらにはフロアには段差がなく、鑑賞者が手を伸ばせば、演者のドレスに触れられるほどの近い距離感で、ピアノと歌声を体感できる。通常は演者同士もお互いの演奏を聞かずに控室に入ることが多いそうだが、観客とともに他の演者の音楽を鑑賞する。こんなふうに、演奏者と鑑賞者が、ともに音楽を通じて新たな体験と関係を生み出す従来型とは異なる場を実現する。そのために、上杉さんは、重層的な工夫を凝らしている。


このコンサートは全体的にアットホームなのだが、演者にとっては緊張感のある”公開録音”の音楽プロジェクトであることもユニークだ。演奏はその場で録音され、後日ピティナ・ピアノ曲事典に掲載される。そのため、観客は大きな音を立てることを控えながら、耳を澄ませることになる。自らも参加したその場の空気ごと、後で事典に音源として掲載されるのだ。鑑賞者も、音楽プロジェクトに参加した一員のような気分になる設えだ。


去る第1回目のコンサート(1月28日開催)で演奏された曲が、さっそく事典に掲載された。こちらは、上杉さんが作曲した、石牟礼道子の詩による歌曲集の動画だ。




5月27日には、この考え方を随所に表現し、上杉さんが企画・構成を担った第2回コンサートが開催される。従来の演奏会とは一味違う、臨場感があり、身近でアットホームな、より対話的な音楽体験を求める方々にとって、見逃せない機会となるだろう。


コンサート詳細:

公開録音コンサート 日本歌曲の夕べ 〜三善晃作品と邦人新作を中心に〜 vol.2


  • 詳細・お申込はこちら (peatix.com)

  • 日時: 2025年5月27日(火)18:30開場、19:00開演

  • 場所: 東音ホール(東京・巣鴨)(JR山手線/地下鉄都営三田線「巣鴨駅」南口徒歩1分)

  • プログラム(予定)

    三善 晃 作曲

    えびがはねたよ(詩:古村 徹三)

    あなたにサタンがいるなんて(詩:白石かずこ)

    【演奏】ソプラノ:櫻井 愛子 ピアノ:渋田 麻里


    三善 晃 作曲

    三つの沿海の歌(詩:萩原 朔太郎)

    【演奏】メゾソプラノ:小林 音葉  ピアノ:松元 博志


    三善 晃 作曲

    五柳五酒(詩:佐藤 信)

    【演奏】バリトン:寺西 一真  ピアノ:入川 舜


    上杉 公志 作曲

    吉原幸子の詩による歌曲集「あたらしいいのちに」(詩:吉原 幸子)新作初演

    【演奏】メゾソプラノ:小林 音葉  ピアノ:松元 博志


    面川 倫一 作曲

    しあわせ(詩:高田 敏子)

    あほらしい唄(詩:茨木 のり子)

    わたしを束ねないで(詩:新川 和江)

    肖像(詩:与謝野 晶子)新作初演

    【演奏】ソプラノ:櫻井 愛子 ピアノ:渋田 麻里


    佐藤 深雪 作曲

    『自分は光をにぎっている』(詩:山村 暮鳥)新作初演

    【演奏】バリトン:寺西 一真 ピアノ:入川 舜


    ※曲目は一部変更になる可能性があります。


コンサートのご案内状(表)

コンサートのご案内状(プロフィール)


▶参考情報: 第1回目コンサート 体験レポート


インターミディエイター・プログラム事務局の松原が、2025年1月に開催された第1回目の演奏会に参加しました。その日のメモを共有します。どうぞご参照ください。


2025年1月28日(火)晴れ

昼、二子玉川でランチをしたあと、「インターミディエイター・プログラム」でご一緒している上杉公志さんが企画された演奏会に。上杉さんはクラシックの作曲家だ。ほぼ足を踏み入れたことのない巣鴨の駅前にそのホールがある。

上杉さんいわく、今回は、あいだを結び、対話と創造を大事にするインターミディエイターとして、この演奏会の企画にあたったのだそう。まずは1組目の演者たちが演奏。その後、企画者である上杉さんから、今回の意図や楽しんでほしい見どころについてお話。以前、オーストリア歌劇団のバイオリニストによるコンサートにいったときには、曲の解説や選曲の意図などが深く話されることはなかった。上杉さんによれば、通常、演奏会は、演者と観客がきっぱりと分かれていて、交わることがあまりないそうだ。今回は、企画者、そして3人の作曲家みずからが作品に込めた思いを語るなど、お話があいだにはさまれていた。観客をわからないまま取り残さない、一緒に楽しめる工夫を感じる。

会場の規模が中程度なこともよかった。通常、演者は自分のパートが終わると控室に戻るそうだ。今回はそうではなく、いちばん後ろの席で、他の演者のパフォーマンスを鑑賞しながら過ごすという、珍しい設えだそうだ。それに、日本語の詩に音をつけて演奏するという、言葉と音を楽しむ演奏会で、詩が印刷して配布されたのも、気が利いている。谷川俊太郎、石牟礼道子、広津里香の詩に、楽曲がついて、抑揚と感情がのったピアノ演奏と歌声によって、詩が動き出すことに驚いた。

演者同士の和やかな関係を感じさせるカーテンコールも、見ている側を笑顔にさせる。手を伸ばせばドレスの裾に触れられそうな距離でパフォーマンスする演者。演者同士の優しい目配せ。お互いを尊重する演者と作曲家のやり取り。作曲家によるオーディエンスにも通じる言葉で語りかける作品解説。どれをとっても、温かい雰囲気を作り出している。手の届くほどの目の前でピアノと声楽を聞く経験ははじめてのこと。このコンサートは公開録音をするためのもので、その日に収録された音楽はYouTubeに公開されるのだそうだ。そのため、大きな声や咳払いは控えながら鑑賞する。音を出さないように気を付ける行為によって、このプロジェクトに自分も参加しているような気分にもなる。インターミディエイター上杉さんの創意工夫を、存分に楽しんだ夜。温かい会場から外に出ると、ひんやりとした空気が心地よい。


※上杉公志さん企画・構成による第2回コンサートも、多くの皆様に体験いただければ幸いです。


上杉公志さんが企画した「ピティナ・公開録音コンサート 日本歌曲の夕べ 〜三善晃作品と邦人新作を中心に〜 vol.1」


文・写真:松原朋子

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