たかしまサーカス 〜未来の物語を描く、本と文化のお祭り〜
- インターミディエイター事務局
- 4月1日
- 読了時間: 5分
更新日:4月4日
瀬川航岸 TAKASHIMA BASEディレクター
一般社団法人ぼくみん/株式会社ぼくみん

「なにもない」は希望に満ちて
人口4万6千人。滋賀県内で最も高い高齢化率38%をこえる高島市。日本における地方問題が待ったなしで進んでいる自治体のひとつだ。エンターテイメント施設の不足は、多くの若者が流出する原因のひとつだろう。美術館や映画館などがなく、文化体験に触れる場が限られている。大学もない。「ここはなにもない」、そう言う市民も多くいる。
しかし、私はなにもないとは思わない。「家入って食べていき〜な」「きゅうり採れたしあげるわ」「困ってはったし手伝ってくれへん?」高島で暮らし、働く人との関わり合いのなかで、ここには、サービス消費に慣れきった現代社会が、人間らしい生き方を取り戻していくための希望がある。ここにいるみんなと、未来の物語を一緒に描きたいと考えるようになった。
サーカス物語のはじまり
全国には、本屋を起点としてまちの文化水準が高まり、独自の賑わいが生まれたケースがある。「TAKASHIMA BASE」もそんなふうに、人びとの日常生活のそばにあり、文化を培っていくような場に育てていきたい。私は本と文化のお祭りを企画することにした。ケースの実践者である書店員を招き、高島の食や伝統に触れ、集まった人が想いを響かせ合うお祭りだ。私はイメージをイラストや図、文章にし、デザイナーSさんと対話をはじめた。
名前は「たかしまサーカス」。だれもが想像できる平易な言葉でありながら、ブックフェアやマルシェといった聞き慣れた言葉ではないものを探し、多様性の象徴や「環」「輪」に由来のある「サーカス」という言葉を選んだ。Sさんと打ち合わせを重ね、音読したくなる文や出店者の顔が見えるプロフィールを入れ、3つ折りするとA4サイズになるユニークなデザインのチラシが完成した。

広がる輪「わたしもやりたい」
私は、この活動のすべてを関係づくりの機会と捉え、物語の共有に努めた。
まず声をかけたのは、これまでに出会ってきた20代の6名だった。イベントのために手足を動かす活動ではなく、ご縁のあった人との関係を大切にし、自身の生活が豊かになっていく活動にしよう。そう呼びかけ、2024年12月の決起会から2025年2月の開催日まで、仲間との準備期間がはじまった。
特に注力したのは、書店や飲食店を訪問し、チラシを手渡ししてコミュニケーションすることだった。あるメンバーは、高島の数少ない書店の店長にこんな声をかけた。
「本屋がすくない高島で、ずっと先導してくださってありがとうございます。高島の本の文化を一緒に盛り上げたい気持ちです。よかったらここで本を買ってくれた人に、このチラシを1枚プレゼントしていただけませんか。」
店長は、単にイベントを宣伝するのではなく、一緒に文化をつくる仲間として協力くださることになった。こうした関係づくりから生まれた出来事は、出店者さんとのLINEグループやSNSを介して共有した。「わたしも関わりたい」そんな人が次々に現れ、たかしまサーカスの輪は広がっていった。
サーカスの輪は、信頼の輪
開催の1週間前、緊張感は高まっていた。伴走してくれていたメンバーのひとりが、私にこう言った。
「瀬川くん、私は不安だよ。みんなこんな大変な思いをしているのに、成功できなかったらどうするの。」
私も不安だ。感情の昂りだって生まれて当然。でも、その言葉に頷くだけではダメだと思った。認識を確かめ合い、信頼を深く築く対話のきっかけと捉えて、「この活動は、みんなにとって想いに共感した仲間たちと一緒に取り組む最高の機会ではないか。のこりの1週間、この仲間たちとどんな物語を描こうか。」という問いをあいだにおいた。
お互いこういうやりとりは慣れていなかった。人を傷つけることを避けて、踏み込んで関わることを諦めて生きてきたから。ふたりは、自分から出てきた言葉に動揺しながらも、信頼しあっているから伝えられる言葉があることを知った。信頼して話しはじめることで、協働するための問いが生まれることを知った。焦っていることに気づかず走っていたのだ。だから一度深呼吸の時間をつくることにした。「よし、今日は回転寿司だ!」同じ時間にチラシを配っていた仲間2人を誘って、回転寿司でひとときを過ごしたとき、私たちにはかけがえのない深い絆が結ばれていることを実感したのだった。チラシの配架は、市内80ヶ所、市外を含めると合計150ヶ所以上のお店にご協力いただくことになった。
物語は日常へ続く
2月末にしては異例の大雪が降りしきる白銀世界のなか、TAKASHIMA BASEには、地域、世代、領域問わず350名の人が集まり、本に触れ、食を味わい、交流を楽しんだ。こうして1日限りのサーカスは幕を閉じ、「すごかったらしい」「本屋ができるらしい」という噂を残していくことになった。運営に関わったメンバーのなかには、会社でまちづくりチームに配属されたり、TAKASHIMA BASEのスタッフとして働くようになった人もいる。若者がいない、なにもないと言われた地域で、たしかに若者が輝く日常が生まれつつある。物語は、まだはじまったばかりだ。

※2025年2月に実施した第1回たかしまサーカスについてのケース
活動分野:文化継承、イベント企画・運営
発揮したインターミディエイターのマインドセット:
☑3分法思考/多元的思考
☑エンパシー能力
□多様性・複雑性の許容
☑エンゲイジメント能力
☑エンパワリング能力
☑対話能力
☑物語り能力
Certified Intermediator
瀬川航岸
TAKASHIMA BASEディレクター
一般社団法人ぼくみん/株式会社ぼくみん

1999年生まれ、滋賀県東近江市出身。2022年大学卒業後、ぼくみんでの活動をはじめ、滋賀県高島市「TAKASHIMA BASE」で、「開かれた対話と創造の場」をつくりだしている。ディレクターとして、カフェ・書店・リソグラフスタジオ・コワーキングを兼ね備えた文化施設の運営や、イベント・プログラムの企画を手がける。出会いと対話から、ひとの可能性をひらき、地域の物語の編集に挑戦する。




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