祖母と父のあいだで対話を紡ぐ ~未来の”乳酸菌生産物質”の物語に向けて~

最終更新: 1月6日

小野寺洋子 株式会社光英科学研究所 専務取締役

#乳酸菌生産物質 #経営 #物語



創業者と現社長のあいだに立ち、方針をしぼる仲裁役


 その日の夜、私は入院中の祖母の危篤の知らせを聞いて病院へ車を走らせていました。高速上の車窓には、立ち並んでいる無数の電灯が流れ星のように去っていきます。人間の一生も、このように一つひとつの光を超えていく道であり、物語なのかもしれません。



 95歳の祖母は戦前生まれ。戦中の栄養不良から健康の大事さを痛感していたところ、当時まだ研究が始まったばかりの「乳酸菌生産物質」を知り、その普及の道に進んでいきます。ただ、お客様は増えず、研究に係る費用が膨大で資金繰りに苦労し、一度は事業をやめました。しかし、乳酸菌生産物質で多くの人に健康になってもらいたいという願いを強く持つ祖母は、娘婿(私の父)に事業を託し、乳酸菌生産物質の仕事を継続することにしたのです。


 祖母から父へと引き継がれた「光英科学研究所」に入社した私は専務取締役に就任し、会社の後継者という立場となりました。実際には、会社の会長職である祖母と社長である父が、会社の経営について日々意見を戦わせるのを目の当たりにしながら、会社運営を円滑にするために二人のあいだに立ち、方針を絞る役目を担っていました。なにぶん身内なので、祖母も父も、遠慮なく怒りを言葉でぶつけあいます。はざまに立たされた私は「自分は2人の仲裁をするためだけに、会社にいるのかしら」と悩ましさがこみ上げる事もしばしばでした。



激論ではなく「対話」が必要なのではないか

 

  そんな祖母でしたが、94歳になり会社を引退、亡くなるまでの一年を老人福祉施設に入所して過ごしました。私は「もう祖母と父の仲裁に入らなくてよい」と安心する気持ちと裏腹に、役目を失ったような不安な気持ちに襲われました。これまで、祖母と父の二大巨頭のあいだで行ったり来たりするだけで、会社の未来像を描く事を何一つしてこなかったのです。


 そのことに気づいた私は、あらためて、乳酸菌生産物質と共に長年を過ごしてきた祖母の、本当の想いや願いを知りたいと考えました。それには、激論ではなく「対話」が必要なのではないか。まずは、祖母じたいの存在を認め、尊重していることを伝えたいと考えました。そこで、施設で過ごす祖母に頻繁に会いに行く事を決めました。祖母は95歳になっていて、少し認知症もありますが、私が訪れるたびに元気に迎え、乳酸菌生産物質を開発するまでの苦労話や、仕事が忙しくて子供たちに苦労をかけたという話をしてくれました。そして毎回、1時間、2時間と対話をする中で、私は祖母の心の中に、乳酸菌生産物質の普及に対する純粋な情熱と、後世に伝えていきたいと願う物語があった事に気づきました。


インターミディエイターとして紡いできた2本の糸

 祖母は95歳で、眠るように病院で息を引き取りました。亡くなる数日前まで元気に施設で過ごしていました。偶然にも、祖母が亡くなった日の昼間に面会に行っていた父は「本当に、元気だったんだよ。起き上がって、にこにこ話をしていた・・・」といい、安らかに眠る祖母の顔を見て、亡くなったことがまだ信じられない、というようなことをつぶやきました。


 そして、とうとう明日が葬儀という時、来客対応や準備に追われていた私のもとに、父が少し遠慮するように1枚の紙を差し出しました。そこには、葬儀参列の方々へのあいさつとして、会長(祖母)とは共に乳酸菌生産物質の普及を目指していたこと、自分にとってかけがえのない母であり友だったということ、そして亡くなる日まで元気な姿を見せてくれて、見事な最期だったと思う、という事が書かれていました。「参列に来てくださった方々に、この文章で、僕から挨拶がしたいんだよね」と、頭をかく父。参列に来てくれた人へ、と言いながら、これは祖母へ伝えたい言葉なのだろうと私は感じました。


  これまで常に意見を戦わせていた祖母と父。車窓を流れる高速の光のように、さまざまな事を乗り越えた祖母と父の、最後の対話のチャンスだと感じました。本来、参列の方々への挨拶は喪主がするものですが、私から喪主である叔父へ申し入れをしたところ、父が挨拶をすることを快諾してくれました。


 そして葬儀の日、会社のお客様をはじめ祖母の友人が大勢いらっしゃる中で、祖母へ父が語り掛けました。心なしか花に囲まれて眠る祖母の顔が、ほころんでいるように見えました。メッセージを読んでいる途中で、思いがこみあげたのか父が号泣しはじめて驚きましたが、参列された皆さんから「気持ちが伝わるわ」とお褒めもいただき、あたたかく祖母を送り出すことができました。


 祖母も父も、意見を戦わせながらも “乳酸菌生産物質への情熱” という絆で結ばれていたのだと思います。そのあいだで私は右往左往し、苦労もしましたが、結果的にはインターミディエイターとなって、2本の糸を紡いできたのかもしれません。


 これからは編み上げた糸を、多様な人々のあいだで紡ぎながら、私なりの未来の乳酸菌生産物質の物語をつくっていきたいと強く感じています。




活動分野: 会社・事業の物語づくり

発揮したインターミディエイターのマインドセット:

 □3分法思考/多元的思考

 □エンパシー能力

 ☑多様性・複雑性の許容

 ☑エンパワリング能力

 ☑対話能力

 ☑物語り能力

 □エンゲイジメント能力


Certified Intermediator


小野寺洋子

株式会社光英科学研究所 専務取締役


株式会社光英科学研究所 専務取締役。同研究所 次期継承者。研究所で乳酸菌・ビフィズス菌の発酵に携わる中で、腸内フローラに代表される「微生物の群れ」の生活に関心を持ち、バイオ技術者として、乳酸菌生産物質や乳酸菌発酵技術を活用した、産学連携研究や新商品開発を推進。経済産業省、平成26・27・28年度、戦略的基盤技術高度化支援事業「複合乳酸菌発酵法を利用した大豆を原料とする抗ストレス食品素材の開発」プロジェクト運営責任者。現在も開発を続けながら、地域イベント等の場で、「微生物と人間が共に生きる物語」について生活者との対話を深めながら、微生物と人間の「協働」を提案する活動を行っている。


Links

光英科学研究所

「インターミディエイター」は設樂剛事務所の登録商標です

©  SHIDARA & ARCHIPELAGOs  2015

  • Facebook Social Icon
  • Twitter Social Icon