エビデンス・データへの道 ~多元的思考と対話の力~

小野寺洋子 株式会社光英科学研究所 専務取締役


#乳酸菌生産物質 #エビデンス・データ #インキュベーション #共同研究 #経済産業省 #産学連携プロジェクト



畑違いのSさんを抜擢し、“多元的思考” へ

 短大を卒業するとすぐに、私は家族経営ではじめた乳酸菌生産物質の仕事に就きました。最初は細々とやっていた会社も、世の中で「健康ブーム」なるものが沸き起こると、徐々に売上を伸ばして社員数も徐々に増えてきました。しかし健康食品は医薬品ではないので「あやしい」イメージもつきまとい、私たちもそのような目で見られる事がたびたびありました。乳酸菌生産物質が腸内細菌のバランスを改善して、便通や免疫に良い影響を与えるということを経験的にはわかっていても、お客様の信頼を得るにはエビデンス・データ(科学的根拠)が必要だと考えていました。




 そんな時、会社の近くにある理化学研究所でインキュベーションプラザが開設されることを知りました。インキュベーションプラザに入居すれば理化学研究所との接点が出来て、共同研究ののちにエビデンス・データが得られるかもしれません。さっそく私たちは理研インキュベーションプラザへ入居し、これまで経理や営業事務を担っていたスタッフのSさんを移動配属して「新規事業開発室」をスタートさせました。


 これで共同研究先もすぐ見つかるだろう、と思っていた私の考えは、もろくも崩れ去りました。インキュベーションプラザには、数名のインキュベーションマネージャーが常駐していて、経営や研究開発について相談できるようになっていました。しかし、当社のように、部屋に事務机を置き、スタッフ1名だけを配属した形はイレギュラーだったようです。インキュベーションマネージャーのチーフから「研究開発するためにここに来たんでしょう? いつ、実験器具は入るんですか? そして研究員は?」と言われました。確かに、他の入居企業は研究設備も整えて、スタッフも大勢常駐させています。しかし、その頃の私たちには研究設備を導入したり、研究スタッフを新たに雇用する費用的余裕はありませんでした。


 せっかく心機一転で担当となったSさんも、インキュベーションマネージャーの指摘にうなだれてしまいました。Sさんは確かに研究開発については畑違いです。でも、初対面の人とでも明るく話をしたり、社外の勉強会にも積極的に参加したりするなど、コミュニケーション力が高く、プロジェクトにSさんの存在は貴重だと考えていました。私はSさんに「部屋の中で研究するだけがエビデンス・データ取得の道ではないはず。どうか色々な人に会って、アドバイスをいただけるような土壌を一緒に作ってもらえませんか?」とお願いしました。最初は戸惑いを見せていたSさんでしたが、何度も対話を繰り返したのち「会社の将来のため、新しい道をみつけたいですね」と行動に移してくれるようになりました。



対話が関係の網の目をつくっていく

 まずSさんは積極的にインキュベーションマネージャーにアドバイスを受けることを繰り返しました。「実験器具はいつ設置するのですか?」と度々言われながらも、「まずはエビデンス・データを取るための情報を収集したい」という意思を伝えました。そして私は他の入居企業と交流して、何か少しでも共同研究先が見つかる方法がないか聞いてまわりました。2人で根気よく情報収集の活動を行っていると、インキュベーションマネージャーも折れて、協力的に支援先を探してくれるようになりました。


 そんなある日、他の入居企業の社長さんから「データを取るなら、国や県の補助金を利用してみたら?」と素晴らしいアドバイスをいただきました。インキュベーションマネージャーに相談すると公募中の補助金について情報を収集してくれ、申し込みの方法については、埼玉県の産学連携コーディネイターNさんにつなげてもらい、アドバイスを受けることができました。しかし、健闘むなしく私たちは落選してしまいます。


 がっかりしていたところ、産学連携コーディネイターのNさんから電話がきました。Nさんは、補助金申請のサポートをした私たちの事を覚えていたようです。


「小野寺さん、この間は残念だったね。ところで、お茶の水女子大学の教授が抗ストレス物質について研究されているんだけど、いま共同研究先を探していらっしゃるんだよ。良かったら一度、一緒に教授を訪問しませんか?」




 これはチャンスかもしれない。お断りする理由は全くありませんでした。その1週間後、Nさんと私は大学を訪れて教授と面談し、費用も無理のない設定で受け入れていただくと、トントン拍子に共同研究契約をする運びとなりました。


 この共同研究は、後に経済産業省から補助金を得て3年間の大きなプロジェクトに発展し、当社のエビデンス・データに大きな功績を残しました。


 実験設備もなく研究員もいないなかでのスタートでしたが、人と人のあいだを大切にして、関係の網の目を地道に築いた結果、出会いや偶然が訪れて、目標としていた道につなげることができました。“多元的思考”と“対話”の継続によって、関わってくださる方たちのエンゲイジメントを高めることで課題を解決したこの経験は、当社がインターミディエイターとして活動していくための大きな自信になりました。




活動分野: 共生・協働のためのコミュニティー

発揮したインターミディエイターのマインドセット:

 ☑3分法思考/多元的思考

 □エンパシー能力

 □多様性・複雑性の許容

 ☑エンパワリング能力

 ☑対話能力

 □物語り能力

 ☑エンゲイジメント能力



Certified Intermediator


小野寺洋子

株式会社光英科学研究所 専務取締役


株式会社光英科学研究所 専務取締役。同研究所 次期継承者。研究所で乳酸菌・ビフィズス菌の発酵に携わる中で、腸内フローラに代表される「微生物の群れ」の生活に関心を持ち、バイオ技術者として、乳酸菌生産物質や乳酸菌発酵技術を活用した、産学連携研究や新商品開発を推進。経済産業省、平成26・27・28年度、戦略的基盤技術高度化支援事業「複合乳酸菌発酵法を利用した大豆を原料とする抗ストレス食品素材の開発」プロジェクト運営責任者。現在も開発を続けながら、地域イベント等の場で、「微生物と人間が共に生きる物語」について生活者との対話を深めながら、微生物と人間の「協働」を提案する活動を行っている。


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「インターミディエイター」は設樂剛事務所の登録商標です

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